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東京地方裁判所 平成元年(ワ)15116号 判決 1991年3月22日

原告 東越産業株式会社

右代表者代表取締役 堀孝一

右訴訟代理人弁護士 高橋孝志

被告 富士興業株式会社

右代表者代表取締役 中村昌光

右訴訟代理人弁護士 八戸孝彦

主文

一  被告は、原告に対し、金三八三万四〇〇〇円及びこれに対する平成元年一〇月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は、被告の負担とする。

三  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1(当事者)

原告は、繊維製品類の製造販売等を業とする会社であり、被告は、プラスチックの再生並びに衣料品の製造販売等を業とする会社である。

2(売買契約)

原告は、被告に対し、左記(一)、(二)のとおり、①ないし⑭の商品(以下「本件商品」といい、個々の商品については「①の商品」というようにいう。)を、代金合計七三五万円(但し、後記値引き後の金額)で売り渡す旨の契約(以下「本件(一)、(二)の契約」という。)をした。

(一)(1)  契約日 昭和六三年一〇月一一日

(2)  商品 ①~⑧の子供用トレーナー四八〇〇枚

(品番)

(品名)

(数量)枚

(単価)円

①九五〇〇〇

男児トレーナー

六〇〇

八三〇

②九五〇〇一

③九五〇〇二

④九五〇〇三

八八〇

⑤九五〇〇四

八三〇

⑥九五〇〇五

女児トレーナー

⑦九五〇〇六

⑧九五〇〇七

(3)  納品期 昭和六四年一月一五日

(4)  代金 四〇一万四〇〇〇円

(5)  支払期日 後記本件(二)の契約の際に、(二)(5)のとおり定める。

(二)(1)  契約日 昭和六三年一〇月二四日

(2)  商品 ⑨~⑭の春物トレーナー三六〇〇枚

(品番)

(品名)

(数量)枚

(単価)円

⑨九五〇〇八

春物トレーナー

六〇〇

九五〇

⑩九五〇〇九

⑪九五〇一〇

⑫九五〇一一

⑬九五〇一二

⑭九五〇一三

(3)  納品期 昭和六三年一二月二〇日

(4)  代金 三四二万円

但し、昭和六三年一一月中旬、原告と被告との間で、⑩の商品の単価を八一〇円に値引きする合意ができたので、右代金額は三三三万六〇〇〇円に減額された。

(5)  支払期日 本件(一)及び(二)の契約の代金総額を昭和六三年一二月二三日と平成元年一月二〇日にそれぞれ半金づつ支払う。

3(現実の引渡し)

原告は、被告に対し、本件(一)の契約に基づき、昭和六三年一二月二二日、①、③、④の商品を、本件(二)の契約に基づき、平成元年二月一〇日、⑨、⑩、⑪、⑭の商品を、それぞれ現実に引き渡した(以下、右の商品を「本件直納商品」という。)。

4(占有改定による引渡し)

原告は、被告に対し、左記(一)、(二)のとおり、その余の商品を占有改定により引き渡した(以下、右の商品を「本件残余商品」という。)。

(一)  原告の担当者松井要司(以下「松井」という。)は、昭和六三年一二月一八日頃、被告の担当者小宮山正男(以下「小宮山」という。)から、本件(一)の契約にかかる商品のうち、②、⑤~⑧の商品について、被告の保管場所がないので原告のほうで保管してくれと依頼されたため、これを了承し、直ちに被告のために保管を開始した。

(二)  松井は、平成元年二月六日頃、小宮山から、本件(二)の契約にかかる商品のうち、⑫、⑬の商品について、被告に保管場所がないので原告のほうで保管してくれと依頼されたため、これを了承し、直ちに被告のために保管を開始した。

5(代金の一部支払)

被告は、原告に対し、昭和六三年一二月二八日、本件(一)及び(二)の契約の代金総額七三五万円のうち、三五一万六〇〇〇円を支払った。

6(支払期日の猶予)

原告は、被告の要請により、残代金の支払期日を、最終的に、平成元年九月三〇日まで猶予した。

よって、原告は、被告に対し、本件(一)及び(二)の契約に基づき、残代金三八三万四〇〇〇円及びこれに対する猶予後の支払期日の翌日である平成元年一〇月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2のうち、(二)の(3)の納品期は否認し、その余は認める。

3  同3は認める。

4  同4は否認する。

5  同5、6は認める。

三  抗弁

1(本件商品の瑕疵)

本件商品は、そのほとんどが、袖、丈の長さ、身巾、袖の太さが製造仕様書と異なってサイズが不揃であったり、縫製不良やサイズネーム落ち、きず、汚れ、プリントにじみ等が存在するといった瑕疵のある商品であった。

2(解除の意思表示)

被告は、原告に対し、平成元年九月末頃、口頭で、代金未払分の商品について本件(一)及び(二)の契約を解除する意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

すべて否認する。

五  再抗弁

(検査通知義務の懈怠)

原告と被告はいずれも商人であるところ、被告は、平成元年二月一〇日までに本件商品を受領したのであるから、遅滞なく又は少なくともその受領後六か月以内に本件商品を検査し、仮に被告主張のような瑕疵があれば原告に対し、直ちにその旨を通知すべきであるのに、右検査ないし通知をしなかった。

六  再抗弁に対する認否

再抗弁事実中、原告及び被告が商人であること、本件直納商品については平成元年二月一〇日までに被告がこれを受領したこと、被告が本件商品を検査しなかったことは認め、その余は否認する。

七  再々抗弁

1(瑕疵の通知)

被告は、本件直納商品について、縫製不良、穴あき、汚れ等の瑕疵が存在することを、平成元年八月中旬頃、被告の担当者小宮山から原告の担当者松井に通知した。

2(商法五二六条適用排除の商慣習の存在)

衣料品業界においては、取扱商品の一品一品が安価であることが多く、取引数量も多量であって、一品ごとに畳まれてビニール袋等で包装されていることから、納品を受けても直ちに商品を検査することは行なわれていないし、売買の形式をとっていても、委託販売との差はほとんどなく、売れ残り商品が出た場合仕入先に平気で返品しているのが実際で、ましてや瑕疵ある商品はいつでも返品できるとするのが業界の慣習となっていて、商法五二六条の適用は排除されている。

八  再々抗弁に対する認否

すべて否認する。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(当事者)、同3(現実の引渡し)、同5(代金の一部支払)、同6(支払期日の猶予)の各事実及び本件(二)の契約の納品期の約定の点を除く同2(売買契約)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、請求原因4(占有改定による引渡し)につき判断するに、《証拠省略》によれば、本件商品は春物の商品であり、韓国から商品が到着次第、被告において引渡しを受けて販売することを予定していたものであること、しかし、被告はこれまで衣料品の販売業務を行なっていなかったので、販売先を開拓するのに手間取り、かつ、商品を保管する場所も狭かったため、原告の担当者松井から、本件(一)の契約にかかる商品については昭和六三年一二月一八日頃、本件(二)の契約にかかる商品については平成元年二月六日頃、いずれも電話で、商品が到着した旨の連絡があったが、被告の担当者小宮山は、とりあえず販売できる本件直納商品のみを引き取り、それ以外の本件残余商品については、早急に販売先を見つけて引き取るからそれまで原告において保管しておいてくれるよう松井に依頼したこと、そこで、原告は、右依頼に応じ、以後、被告のためにする意思をもって本件残余商品を倉庫会社の倉庫に預け、あるいは原告倉庫に保管して代理占有するに至ったこと等の事実を認めることができる。右認定事実によると、原告は被告に対し、本件残余商品のうち、本件(一)の契約にかかる②、⑤~⑧の商品を昭和六三年一二月一八日頃、また、本件(二)の契約にかかる⑫、⑬の商品を平成元年二月六日頃、いずれも占有改定の方法により引き渡したということができる。《証拠判断省略》

三  次に、抗弁(本件商品の瑕疵)についての判断はさておき、再抗弁次いで再々抗弁につき判断する。

原告と被告が商人であること、被告が、平成元年二月一〇日までに本件直納商品を受領したこと、本件商品が検査しなかったことは、当事者間に争いがない。そして、被告主張の瑕疵は、縫製不良、汚れ、サイズ不揃等であり、右瑕疵の態様からして、商品の包装を開いて目視検査すれば瑕疵の有無は容易に分かるうえ、被告は、個々の商品に値札を付けて販売するのであって、右のような目視検査をすることもまた容易になし得るというべきであるから、右瑕疵は、被告において直ちに発見できる瑕疵ということができる。

ところで、商法五二六条に規定する検査通知義務の前提になる目的物を受取るとは、買主側において目的物の検査が事実上可能となることをいうものと解すべきところ、前記のとおり、原告は、被告の占有代理人として本件残余商品を保管占有しているものであり、被告において検査のためいつでもその返還を請求できるのであるから、原告が被告のために本件残余商品を占有保管するようになった時点をもって、被告が本件残余商品を受取ったものと解するのが相当である。

そして、本件商品の最終受領日である平成元年二月一〇日後、遅滞なく、被告が本件商品を検査していないことは当事者間に争いがないが、被告は、平成元年八月中旬頃、被告の担当者小宮山から原告の担当者松井に対し、瑕疵あることの通知をした旨主張する(再々抗弁1)。

しかしながら、商法五二六条一項にいう「瑕疵あることの通知」は、その立法趣旨に鑑みると、単に売買の目的物に瑕疵がある旨を通知するだけでは足りず、売買の目的物の瑕疵の種類及びその大体の範囲を明らかにしてこれを行なうべきものであると解すべきところ、本件全証拠によっても、小宮山が松井に対し、右にいう「瑕疵あることの通知」をなしたことを認めるに足りる証拠はないし、仮に、被告主張の通知がなされたとしても、そもそも、本件商品受領後直ちになされたものとはいい難い。

また、商法五二六条の適用排除の商慣習があるとの被告の再々抗弁2については、本件全証拠によっても、右のような商慣習が存在することを認めるには足りない。《証拠判断省略》

そうすると、仮に、本件商品に被告主張のような瑕疵が存在したとしても、被告は、商法五二六条一項により、右瑕疵を理由として本件(一)及び(二)の契約を解除することはできないというべきである(もっとも、抗弁2の解除の意思表示についてはこれを認めるに足りる証拠はない。)。

四  以上のとおりであるから、被告は原告に対し、本件商品売買残代金三八三万四〇〇〇円及びこれに対する猶予後の支払期日の翌日である平成元年一〇月一日から支払済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払義務があるというべきである。

よって、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 土居葉子)

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